システムに詳しすぎる放射線技師の存在が、実は隠れた競合他社かもしれない
7月13日土曜日、島根県松江市の中国医療情報技師会研修会に参加しました。
そこでの放射線技師さん達の発表を聞いて、「うちのような専任のシステム担当者をアウトソーシングしようとしている会社は、こんな放射線技師さんがいる病院だと営業をかけても成果は厳しいかも・・・」と感じました。医療情報技師の資格を所持した放射線技師さんが院内で部門横断的に活躍されており、それ自体は素晴らしいことだと思います。しかしそれゆえに、うちの会社のように専任のシステム担当を外部委託などしなくても病院のシステム運用保守ができてしまうのも事実・・・。放射線技師さんに負けないように勉強しなくては、と考えさせられる研修会でした。
■プログラム
一般演題1 13時55分 - 15時15分
「装置更新作業における作業効率向上を目的とした機器管理台帳の作成」
「ファイルメーカーを使用した小児の予防接種打ち間違え対策」
③ 倉敷平成病院 診療情報管理課/DPC課 島本博典
「HISと電子麻酔記録システム連携における業務の効率化」
特別講演 15時30分 - 16時30分
座長 大野雄二(安来市立病院)
「情報を制する者が地域医療を制す~医療機関に関わる情報のあり方・使い方~」
山口県立病院機構 経営企画室 室長 中村 敦 先生
一般演題2 16時40分 - 18時00分
座長 榊原祥裕(岡山旭東病院) 山下猛(島根県立中央病院)
① 高梁中央病院 診療情報管理室 滝澤宏和
「当院で取り組んでいる多職種参加型勉強会について~医療情報分野の強化に向けて~」
② 松江赤十字病院 医療情報管理課情報システム係 野津真人
「電子カルテの適正閲覧に向けての取り組みについて~電子カルテの正しい閲覧とは?~」
③ 博愛病院 放射線部・情報システム管理室(兼) 矢倉征道
「医療情報技師が3Cを意識して介入した病理検査における文書管理の業務改善」
④ 山陰労災病院 循環器科・医療情報室・医療安全管理部 太田原顕
■注目した演題
「装置更新作業における作業効率向上を目的とした機器管理台帳の作成」
「ファイルメーカーを使用した小児の予防接種打ち間違え対策」
「医療情報技師が3Cを意識して介入した病理検査における文書管理の業務改善」
【概要】
「装置更新作業における作業効率向上を目的とした機器管理台帳の作成」
DICOM装置とそのほかの接続機器には、IPアドレスやDICOM固有識別子の情報が付与されており、それらを管理する台帳をFileMakerで作成し、運用している。病院スタッフとベンダー間でのスムーズな情報共有が可能となった。
「ファイルメーカーを使用した小児の予防接種打ち間違え対策」
小児予防接種は種類が多く、またそれぞれの次回注射予定時期も様々で、管理が複雑化している。FileMakerを用いた予防接種管理ツールを自作・運用することで、摂取ミスの減少が期待でき、次回摂取のスケジュールを正確に把握することができた。
「医療情報技師が3Cを意識して介入した病理検査における文書管理の業務改善」
病理検査報告書がPDFファイルで委託業者から送られてくるが、これまでは1件1件のファイルを開き、人の手でファイル名を書き換え、専用フォルダに保存する作業に忙殺されていた。委託業者にバーコードを付与したPDFファイルとするよう依頼し、受け取り側はそれをスキャンするだけで、ファイル名を変えることなく、自動で電子カルテ内の専用フォルダに保存できるようになった。
【感想】
今回注目した演題は、どれも放射線技師の方が、自身の担当業務ではないにも関わらず、医療情報技師の3Cを実践し、課題に取り組んだ事例でした。
Communication = 友好的な態度で、他者を理解・許容する
Collaboration = 組織の枠にとらわれず、協力体制を築く
Coordination = 他部門・他職種・他企業との調整・折衝を経て、全体最適化を目指す
2例目の小児予防接種の管理ツールにおいては、FileMaker内にSQLとスクリプトを実装し、フォームに患者IDを入力すると次画面で患者基本情報が展開するようになっていました。これを放射線技師の方が自身で構築しているところに驚きました。「カルテDBの患者基本情報テーブルに患者情報があるから、患者IDをトリガーにしてSQL文で情報を引っ張ってこよう」とは、なかなか一般のコメディカルの人では思い至らないと思います。(逆に放射線技師なら当然の発想かもしれません)
3例目の病理検査報告書の事例では、放射線部門のシステム担当者さんが、検査部門の課題に介入するといった、部門横断的な取り組みでした。バーコードを付与したPDFファイルをスキャンしてバーコード付き画像とすれば、電子カルテシステムの文書管理として取り込める、という提案までは、専任のシステム担当者でもできたかもしれません。しかし、バーコードに付与するファイル名の中にある日付8桁を、“依頼日”とするか“報告書完了日”とするかについては、悩みどころとなったでしょう。それについては、兼任のシステム担当者である演者の方が、医用画像情報専門技師の知識とノウハウを活かし、“依頼日”を採用するべきだと提案されていました。
3例目のこちらの病院では、専任のシステム担当者を設けず、医師や看護師、医事課職員などの医療従事者8名が兼任としてシステム担当部門を運用していました。あえて専任を設けないことで、兼任の担当者さんの業務負担は増えるでしょうが、自部門の知識や知見が他部門にフィードバックされやすいのかもしれません。
■専任のシステム担当を置かない理由について
僕が見聞きした限りですが、中小規模病院ほど、専任のシステム担当者を置かない傾向にあるという印象があります。
その理由は以下の3点と考えます。
・医事課職員が伝統的に兼任してきた
・非生産部門なので、そこに割り当てる予算がない
・システムに詳しい放射線技師で十分なので、専任は必要ない
・医事課職員が伝統的に兼任してきた
医療機関の中でも、比較的昔からシステム導入されていたのは、医事会計システムです。その医事会計システムの面倒を見ているうち、「医事課職員ならシステムに長く関わっているから」という印象を持たれ、いつの間にか他部門のシステムの相談も舞い込んでくるようになった・・・。そのような印象を持っています。
・非生産部門なので、そこに割り当てる予算がない
医師や看護師、コメディカルと違って、直接の診療行為に携わらない(お金を生み出さない)システム部門に、積極的に予算を投じようとする病院管理者は少ないのではないでしょうか。
・システムに詳しい放射線技師で十分なので、専任は必要ない
実は、これが最も多いのでは、と考えています。今回の3例の放射線技師さんのように、医療情報技師や医用画像情報専門技師を持ったスキルの高い人が院内にいれば、おのずと他部門の人もシステム関係のことで頼ってくることと思います。しかもそれを「なんとかできてしまう」ので、わざわざ専任のシステム担当者を置かなくてやっていける、と病院管理者も思うはずです。
これまで拝聴してきた放射線技師の方々の演題内容や、仕事で関わった放射線技師さんと話をしてきた印象ですが、「この技師さんがいれば専任のシステム担当者がいなくても確かに回せそうだ」と思わせる人が多いです。
恥ずかしい話ですが、医療情報技師と医用画像情報専門技師を持った放射線技師さんには、情報処理の知識でも「負けているな」と感じることがあります。趣味でプログラミングをしている技師さんと会話したときなどは、技術的な話についていけませんでした・・・。
僕が個人的に感じたのは、「システムに詳しすぎる放射線技師の存在が、実は隠れた競合他社である」ということです。特に勤務年数の長い放射線技師さんは院内のことを知り尽くしているので、専任のシステム担当を置いてもらうよう営業をかけても、相当骨が折れるだろうな・・・と感じました。