「医療現場の行動経済学」読了
内容からして、主に医師向けの書籍です。サラリーマンの僕が読んでも得るものがないかも・・・、と思っていましたが、全くそんなことはなく。患者の立場として読んでも十分楽しめました。
患者のバイアス、医師のバイアス
医師が患者に治療方針を伝えたとき、患者はどのような心理で、自身の治療方針を決めるのか。
患者自身の年齢や生活環境によって、様々な「バイアス」(偏り)が働くため、本人にとって本当に最適な治療を見いだせないことがあるそうです。
そして、その医師自身も、自分では無意識であっても、診断結果の伝え方や治療方針の選択肢提示を患者ごとに使い分けている、とのこと。
昔のようなパターナリズム(父権主義)の時代ではなく、インフォームド・コンセント(十分な説明と合意)が重要とされている昨今。
それでも、医師は説明の仕方ひとつで、患者の意志決定を意図的に誘導することができてしまいます。
実際、自分が患者として医師の診察を受けたとき、「この先生は何かしらの意図があって、実は自分にとって最適ではない治療方針に誘導しているのでは?」という猜疑心が芽生えてしまったことは、過去にありました。
事実、「往々にして医師と患者のすれ違いは起きるもの」と、著者は述べています。
後悔感情について
本の中で特に印象に残ったテーマは「どうすれば遺族の後悔を減らせるのか」でした。
がん患者が死去したあと、残された遺族が抱く後悔にはどういうものが多いか、また後悔感情そのもの基本構造についても触れています。「負の感情のなかで、最も日々経験するのは後悔感情」という一文には、目からウロコというか、妙に納得させられてしまいました。
後悔感情には良い側面もある、とも述べられています。同じ失敗を繰り返さないための行動の改善につながったり、過去の経験を糧にして洞察力を高めることになる、ということです。
しかし、がん末期など、それこそ後悔感情を次に生かせる機会がない状況になった場合、人生の最後を後悔で終えることになっては目も当てられません。
がん治療の選択や、余命宣告を受けたあとどう過ごすかなど、人生の重要な選択を迫られたとき、どのような選択肢を選んだとしても、最後になって「別の治療方法にすればよかった・・・」「余命宣告なんて知らないほうがよかった・・・」とならないよう、行動経済学を観点にした対策案が提示されていました。
医師以外の医療従事者も一読の価値あり
最後の章で、「他人を思いやる気持ちの強い人の方が、看護師に向いているとは言えない」とあったのですが、これも読んでいてすごく腑に落ちるものでした。
医師だけでなく、日々患者と接する医療従事者にもおすすめできる一冊だと思います。